『生きている麹菌』(これは小説です)

『生きている麹菌』  警察は任意の事情聴取と称して、マネージャー氏の身柄を拘束、証拠隠滅を避けるためマネージャー氏は留置所入りとなった。留置所とはたちの悪い宿泊所のことである。  おまわりさんは言った。 「この端麗純米大吟醸酒を客にふるまったのはあなただけだ。犯人はまさにあなたで決まりである。毒をもったのはどういうわけか白状してはどうか。いつどんな毒を混ぜたんだ」  マネージャー氏は言った。 「わたしはなにもしていません」  おまわりさんは威圧的だった。 「状況を見たらどうだ。あなたと客がいて、日本酒を飲まなかったあなた以外みんな死んでしまったのだぞ」  マネージャー氏は懇願するように言った。 「おまわりさん、わたしは酒をふるまっただけですよ。残った日本酒は調べたんですか、毒があるかどうか」 「調べた。毒はない。さあ白状したまえ。いま白状すれば執行猶予もあるかもしれぬ。しかしそうでなければ永遠に刑務所暮らしだぞ!」 「黙秘権を使います」 「ほおぉ」  人を人とも思わない取調べが強行された。なにを言っても無駄である。マネージャー氏は心根いかれてしまった。  実は警察は現場で採取されていたわずかな日本酒の科学的鑑定を依頼していた。重大案件である。残ったわずかの日本酒を科学捜査研究所、いわゆる科捜研に送っていたのだ。  そして事件発生後一週間、サンプルのDNA鑑定をした科捜研の研究員は告げた。 「原因は野生の麹です」  おまわりさんはいぶかしげに、そしていさ…

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